謎なタイトルですが全有機反強誘電体のお話です。世の中に知られている強誘電体はチタン酸バリウム(チタバリ)やPZTなどが知られています。これら無機誘電体は、高性能、高温駆動、化学的安定性などの利点がある一方で、環境負荷が高い、硬い、一部毒性があるなどの問題があります。これらを解決するための方策として有機物を使った誘電体の研究も行われています。利点は、加工性の向上、軽量、低環境負荷などが挙げられます。しかしながら、無機物に匹敵する性能を示すものが得られていませんでした。そのような中、Yeらは2018年のScience誌中で、ペロブスカイト型構造のMDABCO(NH4)I3というメタルフリーの物質がチタバリに匹敵する飽和残留分極値をもつ強誘電体であると報告しました [1]。
我々は、山梨大和田研究室と共同でこの物質の再現実験を行うとともに、ヨウ素をNO3に変えた物質の構造や特性を研究してきました。しかし、比熱測定から0℃付近に相転移があることはわかっても(図1)、高温側と低温側の結晶構造が解けていませんでした。高温側の電子密度マップから、ペロブスカイト型であることは推測できましたが、全ての分子が回転しているようで原子位置を特定できませんでした。ならば冷やせば分子の回転が止まって構造は解けるのではないかと思うのですが、自然は我々に情けを掛けてくれません。低温にすると図2に示すような低対称化に伴うマルチドメイン状態となってしまい全く構造が解けませんでした。
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しかし、時の流れに身をまかせていると、全てがマッチするタイミングが来たりするものです。結晶性の改善、単結晶回折計の更新、低温装置の復活、引きが強い学生の登場が重なって偶然低温構造が解けました [2]。図3にそれを示します。晶系は単斜晶でMDABCOというメチル基の角を持つ丸い分子がb軸方向に互い違いの向きを持っています。つまり反強誘電体構造であることがわかりました。よくよく構造を見ていると、MDABCOの水素とNO3間に水素結合ができている所があり、それがヨウ素の強誘電体との違いを決めているということがわかりました。
さて、せっかく構造がわかったのだからもう少し物性の方も見てみたいということで、山室先生、古府先生のご協力を頂き誘電特性も測定してみることにしました。図4にいくつかの温度での周波数依存性を示します。高温側で誘電緩和が存在しているのが見て取れます。これは丸い分子の回転運動によるものと思われます。

MDABCOという分子は色々興味深い特性を示してくれますが、すぐに実用化という感じではなさそうです。一度の人生それさえ捨てることもかまわないような物資を探す旅は続きそうです。
[1] H. Y. Ye et al., Science 361, 151 (2018).
[2] T. A. Nakao et al., to appear in J. Phys. Chem. C (2026).